ございます」
「そのわけにはなかなか入り組んだ仔細《しさい》があるのだが、人違いなのだ、人違いで捉まって、甲府の牢へ入れられている。運は悪く、悪いところへ通りかかったのが兵馬さんの因果、身の明りの立つまでは、ああして甲府の牢内に窮命《きゅうめい》しておいでなさらなくてはならねえ」
「どうしてそんな悪いところへ通りかかったのでございます」
「盗賊《どろぼう》だ、盗賊のかかり合いだ」
「盗賊! そんなことはありますまい、なんと間違って兵馬さんが盗賊なんぞと……そんな間違いのあるはずがございませんもの。伯父さん、早く心配して、兵馬さんの身の明りが立つようにして上げてください」
「それについて、俺も実に困ったのだ、とてもあたりまえのてだてで兵馬さんの明りを立てることはできないから、仕方がないからお前に相談に来たのよ」
「だって伯父さん、盗賊をしない者が盗賊の罪を被《き》るなんて、お役人だってわかりそうなもの、盗賊をするような人としない人とは一目見てわかりそうなもの、伯父さんが早く行って、兵馬さんはそんな人ではございませんと明りを立てておやりなされば、お役人が直ぐに御承知になりそうなものではござ
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