ら一喝した仁王のような門番が取って食いそうな権幕《けんまく》ですから、忠作は怖ろしくなって飛び出しながら、黒塗の堂々たる大門を見上げると、正面三カ所に轡《くつわ》の紋があります。
この門をよく見直すと、左右に門番があって、屋根は銅葺《どうぶき》の破風造《はふづく》り、鬼瓦《おにがわら》の代りに撞木《しゅもく》のようなものが置いてあります。
土塀を一周り廻った忠作が通りの町家で聞いてみると、これは薩州鹿児島の島津家の門だと知れました。
鹿児島の島津家といえば九州第一の大大名。その門と邸の結構の堂々たることはさもあるべきことだが、わからないのはそこから強盗が出て町家を荒して歩くということです。あの二人の者はたしかに自分の家へ入った浪人|体《てい》の強盗。その一人はどうやら手傷を負うたらしい一味の者。
それを無事に門内へ入れたところを見ると、これは疑うべくもなきこの邸内の人、そうしてみれば薩州の家来には、強盗を内職にしている者があるはずである。いかに乱世とは言いながら、大名の家来が強盗を内職にしているというのは、あるべきことではありません。
その晩はそれで帰って翌日、忠作は神田佐久
前へ
次へ
全135ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング