間に行わるるのみではなく、町人にまで及びます。ひそかに人の首を斬って、橋の上や辻々へ捨札《すてふだ》と共に掛けて置きます。市民の財産の危険はようやく生命の危険に脅《おびや》かされてきました。
さても本所の鐘撞堂《かねつきどう》の相模屋《さがみや》という夜鷹宿《よたかやど》へ、やっと落着いた米友は、お君から何かの便りがあるかと思って、前に両国の見世物を追い出された晩、お君と二人で宿を取った木賃宿へ行って様子を聞いて、まだ何も消息がないと聞いて失望して、帰りがけに、両国橋を渡りかかると、多くの人が橋の上に立っていますから、米友もなにげなく覗《のぞ》いて見ました。米友ではとても人の上から覗き込むことはできないから、人の腰の下から潜《もぐ》るようにして見ると、橋の欄干《らんかん》へ板札が結び付けてあります。米友は学者(お君に言わせれば)ですから直ぐにその板の文句を読むことができました。
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「本所相生町二丁目箱屋惣兵衛、右の者商人の身ながら元来|賄金《まひなひきん》を請ひ、府下の模様を内通致し、剰《あまつさ》へ婦人を貪り候段、不届至極につき、一夜天誅を加へ両国橋上に梟《さ
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