た時と同じような手段で、表で貧窮組が騒いでいる時、裏で、前に見る通り、朱鞘を差した堂々たる武士が仕事をするのであります。
その強奪《ごうだつ》の仕方があまりに大胆で大袈裟《おおげさ》で、しかも遮《さえぎ》る人があっても人命を殺《あや》めるようなことはなく、衣類や小道具などには眼もくれず、纏《まと》まった金だけを引浚《ひっさら》って悠々として出て行く。
不得要領でどこまでも拡がってゆく貧窮組。それと脈絡があってこの強盗武士に要領を得さするものとすれば、貧窮組も決して不得要領ではないけれど、貧窮組にそんなアクドい根のないことは、その成立の動機が煙みたようなのでわかるし、そのなりゆきがお粥以上に出でないのでわかります。しからばその貧窮組を表にして、それとは全く没交渉《ぼっこうしょう》でありながら、巧《たく》みにそれをダシに使って大金を奪い歩く武士体《さむらいてい》の強盗は果して何者。そうしてその盗った金を何事に使用するのだろう。市中の大商人で、この朱鞘の武士の強奪に会ったものは無数であったけれども、後の祟《たた》りを怖れてそれを表立って申し出でない。申し出でても当時の幕府の威勢では、それ
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