《りょうけん》があるぞ」
「皆さんの方に了簡がおあんなさるなら、了簡通りになさいまし、宅では貧窮組なんぞへ入る人間は一人もございませんし、そんなところへ出すお金なんぞ鐚一文もございません」
「何だと、この若造! やい、みんな聞いたか、今のこの野郎の言草《いいぐさ》を聞いたか」
 威勢のいい兄《あに》いが片肌を脱いでしまいました。それに続いた面々がみな眼を三角にする。
「貧窮組なんぞへ入る人間は一人もねえんだとよ、そんなところへ出す銭は鐚一文《びたいちもん》もねえんだとよ、みなさん方に了簡がおありなさるなら了簡通りになさいましと吐《ぬか》したぜ。べらぼうめ、了簡通りにしなくってどうするものか、貧窮組を何だと思ってやがるんだ、憚《はばか》りながら貧窮組は貧乏人だ」
「ここの宅《うち》は、これで金貸しをしてやがるんだ、貧乏人泣かせの親玉はここの宅なんだ、いまのあのこましゃくれた若造が、あれで鬼みたような奴なんだ、主人はお妾上りだということだ、金持を欺《だま》して絞り上げたその金で、高利を貸して、今度は貧乏人の生血《いきち》を絞ろうというやつらなんだ、だから貧窮組が嫌いなんだろう、誰も貧乏の好
前へ 次へ
全135ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング