す。
「それ、やって来た」
 忠作は苦い面《かお》をして玄関へ出て見ると、威勢のよい遊び人風をしたのが二三人先へ立って、あとは雑多の貧窮組。
「へえ、御存じの通り町内でも貧窮組をこしらえましたから、こちら様でも、どなたかおいで下さるように。もしお手少なでございましたら、幾分か費用の寄進についていただきたいものでございます」
 それを聞いた忠作は、
「せっかくでございますが、私共は無人《ぶにん》でございますから」
「それではどうか、思召しの寄進をお願い申します、この通り町内様でみんな賛成をしていただいたんでございますから」
 帳面を繰りひろげて、鰻屋《うなぎや》では米幾俵、薪炭屋《すみや》では店の品|幾駄《いくだ》というように、それぞれ寄進の金高と品物の数が記されたのを見せると、
「宅《うち》なんぞはこの通り裏の方へ引込んでおりまして、とても表通りのお歴々と同じようなお附合いは致し兼ねまする、どうかそれは御免なすって下さいまし」
「それでは、誰か貧窮組へ出ておくんなさるか」
「宅は女と子供ばかりで」
「やい、ふざけやがるな、貧窮組を何だと思ってるんだ、ぐずぐず吐《ぬか》すとこっちにも了簡
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