っています。
「でも、大勢に悪《にく》まれてはつまらない」
 お絹は気のない面《かお》をしていたが、忠作はいっこう撓《ひる》まずに、
「貧乏な奴は日頃の心がけが悪いんだ、有る時は有るに任せて使ってしまい、無くなると有る奴を嫉《そね》んで、あんな騒ぎを持ち上げる、あんなのを増長させた日には、真面目《まじめ》に稼《かせ》いでいる者が災難だ、わしは鐚一文《びたいちもん》もあんなのに出すのは御免だ」
「そんな一国《いっこく》なことを言って、大勢の威勢で打壊《ぶちこわ》しにでも会った日には、ちっとやそっとの金では埋合せがつかない」
「たとえ打壊しに逢ったからと言って、あんな筋の違ったやつらに物を出してやることはできません。あんなのが出来たために日済《ひなし》の寄りの悪いこと。いったい役人が何をぐずぐずしているんだろう、いちいち括《くく》り上げて牢へぶち込むなり、首を斬るなりしてしまえばいいのだ」
 こんなことを言っている時に、表の戸がガラリとあいて、
「へえ、御免下さいまし、町内でもいよいよ貧窮組をこしらえますから、お宅様でもどうか応分の御助力を願いたいもので」
 ドヤドヤ入って来たものがありま
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