いで、小無頼漢のうちの抜目のないのがこれを利用することになりました。
困ったのは道庵先生で、本業の医者をそっちのけにして貧窮組の太鼓を叩いて歩いています。因果なことに先生には、こんなことが飯よりも好きなので、ただ嬉しくてたまらないのです。嬉しまぎれに、一種の煽動者となってしまったけれど、時々穏健な説を唱えて、たいした乱暴を働かせまいと苦心しているのは感心なものです。
この貧窮組が昌平橋に夜営している時分に、これより程遠からぬところに住居《すまい》している金貸しの忠作は、お絹と夕飯を食いながら、呟《つぶや》いて言うには、
「悪いことが流行《はや》り出した、ここは表通りではないけれど、そのうちには何か集めに来るだろう、その時は手厳《てきび》しく断わってやる」
お絹はそれに対して、
「そんなことをして悪《にく》まれるといけないから、少しぐらい出してやった方がよいだろう」
「いけません、癖になるからいけません、あんな性質《たち》の悪い組合をお上が取締らないというのが手緩《てぬる》い」
忠作は子供のくせに、このごろではもう前髪を落して、肩揚《かたあげ》の取れた着物を着て、いっぱしの大人ぶ
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