《は》せつけました。
 兵馬は望月家の門前へ立って案内を乞うと、なるほど広庭でもって若い者が大勢、剣術の稽古をして喚《おめ》き叫んでいました。
 胴ばかり着けて莚《むしろ》の上で勝負をながめていた若い者の頭分《かしらぶん》らしいのが出て来て、
「何の御用でござりまする」
「あの宮の辻と申すところに出ている梟首《さらしくび》のことに就いてお尋ね致しとうござるが」
「あ、あの梟首のことに就いて……そうでございますか、まあどうかこれへお掛けなすって」
 若い者の頭分は、そのことに就いて語ることを得意とするらしく、喜んで兵馬を母屋《おもや》の縁側へひくと、村の剣客連はその周囲へ集まって来ました。
「今からちょうど五日ほど前のことでございました。当家の望月様へ甲府の御勤番と言って立派な衣裳《なり》をしたお武士《さむらい》が二人、槍を立て家来を連れて乗込んで来ましたから、不意のことで当家でも驚きました。ちょうどそれにおめでたいことのある最中でございましたから、なおさら驚きました。けれども疎略には致すことができませんから、叮重《ていちょう》にお扱い申して御用の筋を伺うと、いよいよ驚いて慄《ふる》え上
前へ 次へ
全135ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング