《かた》って、ここの望月様という旧家へ強請《ゆすり》に来たのでございます。望月様は古金銀がたくさんあると聞き込んで、それを嚇《おど》して捲き上げようとして来ましたが、悪いことはできないもので、ちょうどこの温泉に泊っていたお武士《さむらい》に見現わされて、こんな目に会ってしまいました。あんまり図々《ずうずう》しいから首はこうして晒《さら》して置けとそのお武士がおっしゃる、望月様もあんまり酷《ひど》い目に会わせられましたから、口惜しがって、その武士のお言付《いいつけ》通り、ここにこうして見せしめにして置くのでございます。今日で三日目でございます」
「して、その望月というのはいずれの家」
「あの森蔭から大きな冠木門《かぶきもん》が見えましょう、あれが望月様でございます、たいへんに大きなお家でございます。もしこの悪者の余類が押しかけて来ないものでもないと、このごろは用心が厳重で、若い者を集めて夜昼《よるひる》剣術の稽古をやったり鉄砲などを備えて置きますから、あなた様にもその心持でおいでにならないと危のうございますぞ」
 こんなことを話してくれましたから、兵馬は教えられた通りその望月家の門前へ走
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