ってしまいました。その勤番のお侍衆の言うことには、当家には公儀へ内密に夥《おびただ》しい金銀が隠してあるということを承わってその検分に来た、さあ隠さずそれを出して了《しま》えば内済《ないさい》ですましてやるが、さもない時には重罪に行うという申渡しなんでございます。あんまり突然《だしぬけ》に無法な御検分でございますから、当家の老主人も若主人も、親類も組合も土地の口利《くちきき》もみんな呆気《あっけ》に取られてしまいました。尤《もっと》も当家には金銀が無いわけではございませぬ、金銀があるにはあるのでございます、他に類のない金銀が当家には蔵《しま》ってあるには違いございませんけれども、その蔵ってあるのはあるだけの由緒《いわれ》があって蔵ってあるので、決して公儀へ内密だとか、隠し立てを致すとか、そんなわけなのじゃございません、先祖代々金銀を貯えて置いてよろしいわけがあるんでございますから、まあそれからお聴き下さいまし……御存じでもございましょうが甲州は金の出るところなんでございます。金の出るのは国が上国《じょうこく》だからでございます。その金の出ますうちにもこの辺では雨畑山《あまはたやま》、保
前へ
次へ
全135ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング