たか、やがて下谷の山崎町の太郎稲荷《たろういなり》のところまで来てしまいました。そこへ来ると、門前に黒山のように人がたか[#「たか」に傍点]っています。
「貧窮組《ひんきゅうぐみ》が出来たんだ、貧窮組」
 米友が社前をのぞいて見ると、大釜《おおがま》が据《す》えてあってそれでお粥《かゆ》を煮ています。世話人のような威勢のいいのが五六人で、そのお粥の給仕をしてやると、群がり集まった連中がうまそうに食っています。切溜《きりだめ》の中には沢庵《たくあん》や煮染《にしめ》や、さまざまのお菜《かず》が入れてあります。
「有難え、貧窮組が出来た」
 その大釜からお粥を貰って食べている人を見ると、貧乏人ばかりではないようです。乞食非人の体《てい》の者などは一人もいないで、小さくともみんな一家を持っているような人間ばかりですから、米友も変に思って見ていると、しまいには給仕をしていた世話人らしいのが、そのお粥《かゆ》を食いはじめます。そうすると、今まで食べさしてもらった貧窮人が、今度はかわりあってお給仕をしてやっているから、米友はいよいよ変に思って、
「施《ほどこ》しをするんだか、されるんだかわからねえ
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