よ」
「ああ、そうか、俺らはさっきから、何のためにお前がそんな紙きれを頭へ結《ゆわ》いつけているのかわからなかった」
「こちらへおいでなさい。今いう通り、人に知れると面倒になるから誰にも知れないように、わたしがよいところへそっと隠しておいて上げたのだから」
女は米友を土蔵の裏へ引っぱって行って、河岸の水際《みずぎわ》まで米友をつれて来た時に、
「その石を転《ころ》がしてごらんなさい」
「あ、これだ、これだ」
石を転がすとその下にあったのは、まさに自分の持っていた財布。
「早く持っておかえりなさい、それがために御主人を失敗《しくじ》るようなことがあると、お前さんもまだお若い人だからためにならないから。そうして、これを御縁にまた遊びにおいでなさいよ」
「お前さんの家はどこで、名前はなんというんだ、改めてお礼に上らなくちゃならねえ」
「わたしの家? そんなことはどうでもようござんすよ、お礼なんぞはいけません――名前だけは言いましょう、お蝶というんですよ。ここへ来て、今時分、お蝶お蝶といえば、大概お目にかかれますわ」
五
落した金をお蝶という夜鷹《よたか》の女から受
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