って黒を引き出して見せる」
「それじゃ先生、あの黒ん坊とお前さんは知合いなんだね」
「なんでもいいから見ていろ」
「先生、印度の言葉がわかるのかね」
「わかるとも、印度の言葉であれ、和蘭《オランダ》の言葉であれ、ちゃんと心得ている」
「豪いもんだな」
「いよいよ楽屋の方へ押しかけて行ったな、うまく黒を引っぱって来ればいいがな。さあ、黒が来てなんと言うか、よく聞いていろ。このなかに印度の言葉がわかる奴は憚《はばか》りながらこの道庵のほかには無《ね》え、なあに、楽屋のやつらだって印度の言葉がわかるものか。出て来たら、奴の挨拶の仕様によって、おれが一番、通弁をして見物のやつらをあっと言わせてやる、出て来なければ俺が迎えに行って連れて来て見せる、俺が来いと言えば二つ返事で来る、もし病気だといえばお手の物だから俺が診察してやる、日本広しといえども、印度人の病気を見出すにはこの道庵より上手な医者は無《ね》え」
「先生、あんまり大きなことを言うと見物の人に撲《なぐ》られるよ」
「なあに、大丈夫、おれは印度の言葉を心得ている、その上に印度人の病気を見出すことが上手だ」
「先生、出て来ましたぜ」
「やあ
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