見に来たんだい」
半畳《はんじょう》が飛ぶ。
自分の楽屋へ逃げて来た印度人、楽屋にはお玉のお君が胡弓《こきゅう》を合わせていました。
「どうしたの、友さん」
「駄目だ、駄目だ」
ここへ来ると印度人は楽な日本語です。
「まだお前、引込む時間ではないのだろう」
「いけねえ」
印度人は、お君の傍へ倒れるように坐って首を振りました。
「どうしたんですよ」
お君は胡弓をさしおいて心配そう。
「ばれちゃった、ばれちゃった」
「まあ」
お君も安からぬ色。
「誰か、お前が印度人でないと言う人があったの」
「うん」
「じゃあ何かい、お前が、宇治山田の友さんのお化《ば》けだということを、誰か見物が言ったの」
「そうは言わねえけれど、知っている人に見つかっちゃった」
「知ってる人? それは誰」
「それは、俺《おい》らが世話になったお医者さんだ」
「お医者さん? 伊勢《あちら》のお医者さんかえ」
「いいや、いつかもお前に話したろう、俺らが隠《かくれ》ヶ岡《おか》で突き落されて、一ぺん死んだやつを生かしてくれたお医者さんだ」
「それでは、あの下谷の長者町にいらっしゃるという先生かい」
「そうだ、そ
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