なく鎖が外《はず》されるとお君とムクとは、丸くなってこの小屋の火と煙の中から逃げ出しました。お君には、もう逃げ場がわからなかったがムクはよく知っている。犬と人とは辛《かろ》うじて火の外へ逃げ出して、
「わたしはいいから、早く親方さんや、娘たちを助けておやり、わたしはもはや大丈夫だから早く、お前、みんなの娘たちを助けて上げておくれ、悪い奴に担がれて向うの方へ連れて行かれたんだから、早く……」
十
女軽業の連中を引っ担いで来た折助どもは、闇に紛《まぎ》れて荒川の土手、葭《よし》や篠《しの》の生えたところまで来てしまいました。
土手の蔭へ女軽業の連中を珠数《じゅず》つなぎにして置いて、
「さあ、大変な騒ぎになってしまった、これから先をどうするのだ、まさか焼いて喰うわけにもいくめえ、そうかと言って、ここまで持って来たものを、ほうりっぱなしにして逃げて行くと、娘たちが蚊に食われてしまう、縄を解いてやれば、さいぜんのように荒《あば》れ出して始末にいかねえ、なんとか面白い工夫はないか」
「なるほど、こうしておいて蚊に食わせてしまうのも残念なわけだ、縄を解いてやれば荒れ出す、そのうちにもこの力持と来た日には、三人や五人では手に負えねえ、また身の軽い方は商売柄だから、ここらの田圃《たんぼ》へ突《つ》ん逃げたら、蝗《いなご》を捕まえるような手数がかかる、どうしたものだ」
「いいことがあるわい、一度に縄を解いてやると物騒だから、一人ずつ縄を解いてやろうじゃねえか、ここにいるおれたち仲間と、女の仲間と数を読み合わせておいて、籤引《くじびき》とやろうじゃねえか、籤を引き当てた順で、この女たちを片っ端から一人ずつ連れて、どこへでも勝手なところへ届けてやることにしたら面白かろうじゃねえか」
「そいつはいいところへ気がついた、籤引にしよう。籤引はいいけれど、この力持なんぞを引き当てたら災難だ、下手なことをやればこっちがかえってギュウと潰《つぶ》されてしまうんだから、あんまりジタバタさせねえように、ものやわらかに道行《みちゆき》という寸法に行きてえものだ」
「ものやわらかに道行という寸法に行けばそれに越したことはねえが、おたがいに和事師《わごとし》という面《つら》でもねえし、とにかく、籤としてみよう、籤を引いてみた上で、また何とか面白い趣向があるだろうよ」
「籤を引く前にこ
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