一分の利息を上げる、それより上を取ってはならないことにお上《かみ》できめてあるんだが、どうしてどうして、裏はそんなものではない、十五両一分から十両一分、五両一分なんというのも珍らしくはないのですからね。それで向うが折入って御無心《ごむしん》に来る、こっちが高くとまって、それでいやならおよしなさいという腹でいると、背に腹は換えられないから向うが往生してしまうんでさあ、向うに働かしてこっちは懐手《ふところで》をしていて、うまい汁はみんな吸い上げてしまう、こんな面白い商売はまたとあるもんじゃない。これから追々|大尽金《だいじんがね》というのを、はじめてみようと思っていますよ。大尽金というのは大身《たいしん》や金持の若旦那なんぞが、親や家来に内緒《ないしょ》で遊ぶ金を貸すんですね、これは思い切って高い利息を取って、そうして取りはずれのない仕事、ナニ、証文面《しょうもんづら》は御規則通り二十五両一分にしておくから、まかり間違って表沙汰になったところで、それだけの金は取れるんだ。そんな心配はありませんよ、こっちが表沙汰にしようと思っても、向うで折入って来るから……」
忠作は帳面と算盤を見比べながら、ひとり悦《えつ》に入《い》るのを、お絹は面白くもない面《かお》をして、
「わたしの知ってる人が証人に立つから、百両融通してもらいたいと言って来たがどうだろう、借主は両国で景気のいい見世物師だという話だが、証人が確かだから……」
「見世物師?」
「ええ、両国に出ていたのが今度、旅を打って廻ろうというのに、仕込みや何かで金がかかるから、少しばかり借りておきたいと言うんですよ」
「なるほど、見世物師なんというものは、あれで当るとなかなか儲《もう》かるものだから都合して上げてもいいが……」
「今晩、また相談に来ると言っていたよ、よくその時に聞いてみたらいいでしょう」
「向うの話ばかり聞いていても駄目、実地に行って様子を見て、それから抵当《かた》になりそうなものの目利《めきき》をした上で……」
「そんなら行ってごらん」
「ほかにも廻るところがあるから、夕飯が済んだら出かけましょう。両国はなんと言いましたかね」
「何と言ったか、わたしもよく知らない、名札《なふだ》が置いてあったはずだから見て上げよう」
お絹は気のないように、これだけのことを言いぱなしにして、自分の居間へ帰ってしまいました。居
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