ら」
相変らず跛足《びっこ》を引きながら庭を掃いていると、
「友造、友造」
奥の方で呼ぶ声がします。
「ばかにしてやがら、友造、友造と噛んで吐き出すように言やがる」
「友造、友造」
「自暴《やけ》になって呼んでやがる、返事をしてやらねえ」
「友造、友造」
「はははのはだ、友造がどうしたんだ、友造で悪けりゃ勝手にしろ」
「友造、友造」
「やあ、こっちへやって来るな、怒ってやがる、小餓鬼《こがき》のくせに金貸しなんぞをしやがって、生意気な野郎だから返事をしてやらねえ」
「友造、友造」
キンキンした声で怒鳴りながら奥から飛んで来る様子。
「隠れろ、隠れろ」
友造の米友は縁の下へそっと隠れました。
「おや、ここにもいない、友造、どこへ行ったんだ、友造」
「はははのはだ」
米友が縁の下で舌を出すと、忠作はその上で床板《ゆかいた》を踏み鳴らします。
「友造、友造」
「はーい」
縁の下から返事。
「縁の下にいやがる。何をしているんだ、さっきからあれほど呼んだのが聞えないのか」
「聞えませんでした」
「嘘をつくな」
「嘘じゃありませんよ」
「嘘でなけりゃ貴様は聾《つんぼ》だ、跛足《びっこ》の上に聾ときては形《かた》なしだ」
「何だと」
「ナニ! 主人に向って貴様は口答えをするか、主人に向って」
いつもの米友ならばなかなか黙ってはいないのだが、今日は奉公人の友造、短気をしてはいけないということが、お君からのくれぐれもの餞別《せんべつ》の言葉でもあり、せっかく仲人に立ってくれた道庵先生への義理でもあると、感心に辛抱しました。
「どうも仕方がねえ、なるほどお前さんは主人だ」
米友――ここへ来てからは友造という名に改められたが、面《つら》を膨《ふく》らかして、御主人様のいうことを黙って聞いていると、
「馬鹿、日済《ひなし》を集めに行って来い」
「へい」
「さっさと掃いてしまってこっちへ廻れ、よく呑込めるようにしてやるから」
忠作は障子を荒々しく締め切って奥へ行ってしまいました。
「ちぇッ」
友造は舌打ちをして、
「いやになっちまうな、また日済集めにやられるんだ。日済集めは俺らは大嫌《だいきら》いだ、ナゼだと言えば、あの申しわけを聞くのがいやなんだ、そうかと言って思うように集まらねえと、あの小僧ッ子の御主人様がガミガミ言やがる、いやだなあ、いやだなあ」
友造は口小言を言
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