れというもみんな其方が強情を張るからじゃ、僅か三千両の金、金が惜しいか女房が可愛いか」
「御無理でございます、御無理でございます」
「はははは、では女房が御城内へ引っ立てられ、親たちが縄付《なわつき》になっても、三千両の金は出せないと申すか」
「三千両などと申す大金が……」
「黙れ黙れ、先祖以来、公儀の眼を掠《かす》めて貯えた金銀が唸《うな》るほどあるくせに、三千両は九牛《きゅうぎゅう》の一毛《いちもう》。のう御同役、遠いところへ隠してあるならば、なにも古金の耳を揃えなくても、今時《いまどき》通用する吹替物《ふきかえもの》でも苦しゅうはござらぬてな」
「いかさま、三千両の数さえ不足がなければ、板金《はんきん》であろうと重金《じゅうきん》であろうと、そこは我々が上役へよしなに取計らう」
同役二人が面を見合せるところへ、
「もしお役人様、ただいま、あなた様方にお目にかかりたいと、一人のお武家《さむらい》がこれへお見えになりました。お名前は水戸の山崎譲と申せばおわかりになると申しますのでございます」
宿の主人が怖る怖る、遠くの方から平身低頭しての取次であります。
折助には渡り者が多い
前へ
次へ
全100ページ中85ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング