したのでもあろう」
「そうではござんせぬ、奈良の帝様が、たしかにその地へお移りになったということでござんす、その帝様は女のお方様で……」
「女の帝……奈良朝で女の帝に在《おわ》すのは」
 竜之助は自分の持っている国史の知識を頭の中から繰り出して、お徳の語るところと合せてみようとして、
「奈良《なら》七重《ななえ》……奈良朝は七代の御代《みよ》ということだが、そのなかで女の帝様は……」
 竜之助の思い浮ぶ知識はこれだけのもので、その七代のうちにどのお方が女帝におわしまし、その御名《ぎょめい》をなんと申し上げたかというところまでは届かないのです。
「その帝様《みかどさま》が、これへお越しになりまして、この土地は山国で塩というものがござんせぬ故、帝様は天にお祈りなされると、地から塩が湧いて出て、今も塩《しお》の井《い》というのがその土地にあるのでござんす。それから片葉《かたは》の蘆《あし》というのがござんす、帝様がこの土地へおいでになってから、旦暮《あけくれ》都の空のみをながめて物を思うておいであそばした故、お宮のあたりの蘆の葉がみんな片葉になって西の方へ向いていたということでござんす」
 
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