た山の娘は粛々《しゅくしゅく》として道標の傍《かたわら》へやって来る。
「長い刀……」
頭のお徳は竜之助が捨てた刀を落葉の中から拾い取る。
「この片腕……」
血が雨で洗われている片腕――さすがに気味を悪がって面《かお》を反《そむ》ける。
「この人は、こりゃお武家じゃわいな」
恐る恐る竜之助の傍へ寄る。
「水、水が飲みたい」
「え、えッ!」
山の娘たちは一足立ち退く。
「生きていますぞいな、このお人は」
「なんぞ物を言いましたぞいな」
年嵩《としかさ》のお徳とお浪とは、竜之助の傍へ再び寄って来て、
「もし」
「うーむ」
「もし」
背を叩《たた》いて呼んでみて、
「このお人は生きてござんす、その片腕を切られたのは、このお人ではござんせぬ、薬を飲まして呼び生《い》けて上げましょう」
薬はお手の物。
「水があるとな」
「どこぞ捜《さが》して来ましょうか」
若いのが一人出ようとするから、
「いいえ、離れてはなりませぬ、一足なりと一人でここを出てはいけませぬ。皆さん、笑いなさんな、このお人に、わたしが口うつしでこの薬を飲まして上げるから」
山の娘の頭《かしら》のお徳は、気付けの薬
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