《すす》だらけになった自在鍵《じざいかぎ》、仁王様の頭ほどある大薬鑵《おおやかん》、それも念入りに黒くなったのを中にして、竜之助とがんりき[#「がんりき」に傍点]とは炉を囲んで坐りました。
「もう大丈夫でございます、先生、ここまで来れば」
がんりき[#「がんりき」に傍点]は頻《しき》りに焚火《たきび》をする、その焚火が燈火《あかり》の代用をするのであります。
「今、坊様に頼みましたから、ほどなくお夜食が来るでござんしょう、どうも御覧の通りの荒れ寺でございます……と言って、先生にはおわかりになりますまいが、本堂も庫裡《くり》も山門も納所《なっしょ》もごっちゃなんで。そうしてこの坊主というのが、引導も渡せば穴掘りもやろうというんでございます」
竜之助は例の通り頭巾《ずきん》を被ったなりで、刀は側《わき》に置いて、焚火に手をかざしています。その様は、がんりき[#「がんりき」に傍点]がなぜ自分を引張って来たかもわからず、どうするつもりだか知らないようでしたが、
「お前さんは、どういうお人だい」
竜之助はこう言って、はじめてがんりき[#「がんりき」に傍点]に問いかけました。
「わっしでござ
前へ
次へ
全117ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング