お君は躍起《やっき》になって米友の槍先を遮《さえぎ》りながら、その相手になっている若い侍の面を見てまた驚き、
「まあ、これは宇津木兵馬様……どうしたことか存じませぬが、どうぞ御勘弁下さいまし、この人は気が早くて口が悪い人ですけれども、決して悪い人ではありません、わたしの友達でございますから、どうぞ堪忍《かんにん》してあげて下さいまし」
宇津木兵馬は船の中でお君がよく知合いの人でありました。お君は米友に代って謝罪《あやま》ってしまいました。
宇津木兵馬は、ここでお君に返答を与える隙もなく、抜いた太刀は鞘《さや》へ納める余裕もなく、その場を飛んで出でました。
兵馬が走《は》せ出すと、群集は兵馬のために道を開いて通しました。
あとに残ったのが米友とお君。
「米友さん、お前、どうしてまあ、こんなところに来ていたの」
「それよりか君ちゃん、お前がまたどうしてこんなところへ来たんだい」
「それにはずいぶん永い話があるんだから、どこかでゆっくり話しましょうよ」
「ここで話そう、この松の木の下がいいや」
羽衣松《はごろもまつ》の下。米友は槍を提《さ》げたなり歩いて行って坐る。お君は置放しに
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