》い秋の野路、それを半日も歩いていると、饑《うえ》と疲《つか》れで足が動かない。何というところか、田舎の外《はず》れ、馬子《まご》などの休みそうな一ぜん飯屋の隅で辛《から》くも、朝餉《あさげ》と昼飯とを一度に済ませて、それから中泉と聞いて歩いて行きましたが、少したって中泉はと尋ねてみたら、また横道へ入ったと言われて、もう気を落してしまって、それからは足が動かず、ちょうど見つけたのが八幡《はちまん》の森。その森蔭で休もうとすると、小さいながら人一人を容《い》れて余りある祠《ほこら》。お君はその中へ入って、風呂敷包を抛《ほう》り出してほっと息をついたのでありました。
「お母さん、お母さん」
お君は悲しさと懐しさで、母を慕うて声をあげた時に、仮寝《かりね》の夢が破れました。夢が破れて見ると、いつのまにか日は暮れかかって、祠の外から、西の海へ沈む夕焼けが赤々として本堂を洩れて、格子《こうし》の透間《すきま》からお君の面《おもて》にまで射し込んでいるので、夢よりはいっそう切《せつ》ないわが身に返りました。
旅寝の疲れで夢を見て、母を恋い慕うて覚めて見れば、身はひとり寝の祠の中で、外は日暮れ
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