々《りゅうりゅう》、今日という今日は、きれいに生捕《いけど》ってしまって、さいぜん駕籠にお乗りなすったままそっくりお連れ申して、そこで今頃は三保の松原へ連れて行かれて、首になっているだろうと、こういうわけなんで」
「わたしにも似合わない、すっかり老爺《おやじ》に引っかけられてしまった」
 お絹は駈け出して、前《さき》の茶店の方へ行こうとすると、
「まあ、待ちなさいまし」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]はその袖を控えて、
「まだ、お話し申し上げることがあるんでございます、それだけでは、まだほんの序《じょ》の口《くち》で、盲目の剣術の先生や七兵衛が今どこにいるか、それもおわかりになりますまい」
「三保の松原だと言ったじゃないか」
「三保の松原には違いありませんが、三保の松原も広うございますから。なあに、まだ大丈夫でございます、首になるような気遣《きづか》いはございません、とにかく一通りお聴きなすって」
「早く話してごらん」
「ここまでは私も七兵衛の方へついて片棒《かたぼう》を担《かつ》いでやりましたが、これから一番、裏切りをして、お前様の方へ忠義を尽してみてえんで」
 がんりき[#「が
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