がんりき[#「がんりき」に傍点]が小腰をかがめて笠の紐を解く。
「七兵衛のお友達? そうしてわたしに何か御用が……」
「へえ、別に用もございませんが、少しばかりお話し申し上げたいことがありまして」
「何のお話ですか」
「ここじゃお話しにくいんで……」
「なにもそんなに話し悪《にく》いことはありやしますまい、ここでお聞き申しましょう、歩きながらお聞き申しましょう」
「左様でございますか、そんならそれでよろしゅうございます。いったい、あなた様はあの七兵衛という男が、今どこへ何しに行ったと思召《おぼしめ》しなさいますか」
「七兵衛がどうしました」
「お前様はすっかりあの七兵衛に出し抜かれておしまいなすった、ここでお話しにくいと申し上げたのは、それなんで。私共は、いちいち七兵衛の魂胆《こんたん》を喋《しゃべ》ってしまいたいと思いますが、こんなところでひょっとして人の耳に入っても大事はございませんか」
「ようござんすとも、誰に聞かれたってちっとも苦しいことはありません、言ってごらん」
「なに、大したことじゃございません、あなた様とお連れのお乗物、あの中のは、たしか、なんと言ったけな、机竜之助か、
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