いてしまいました。
「どうも結構なお天気でよろしゅうございますな」
お愛想《あいそう》を言って、つと七兵衛を通り抜いてしまう。
「へえ、よいお天気で……」
と七兵衛は返事をしたものの、さっさと自分を抜いて行く銀ごしらえの男の歩きぶりを見ると癪《しゃく》に触《さわ》りました。この俺を抜いて歩く奴、小面《こづら》の憎い振舞をしたものかな、よしそれならばこっちにも了簡《りょうけん》があると、七兵衛は足に速力を加えて歩くと、見るまにまた銀ごしらえの脇差を追い抜いてしまいます。
「どうもお天気がようがすな」
七兵衛は、銀ごしらえの脇差を尻目《しりめ》にかけて通ると、
「へい、よいお天気で……」
その男もまた、負けない気で足に馬力をかけました。
二人は、ついに雁行《がんこう》して歩き出してしまいました。
七兵衛は、妙な奴だと思うから別に言葉もかけず、そうかと言ってこうなると抜かれるのも癪だから、ずんずん歩いて行くと、その男もまた口を結んで七兵衛と押並ぶようにして歩いて行く。
はて、今まで旅をしたが、こんな奴に会ったことがない、別に怖《こわ》いことも気味の悪いこともないが、足の早いのが癪
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