ね。ああよかったとわたしは思いました、先生のことだから、直ぐにその槍を奪い取って、反対に突き殺しておしまいなさるか、または刀を抜いて斬っておしまいなさるだろうと思っていますと、先生は槍を押えたままで、自分の腰のものへは手もかけず、振返って後ろに向いた面の色。その時に月がどの辺にあったか、よく気がつきませんでしたが、わたしの目には今でもありありとそのお面付《かおつき》が残っているのでございます、眼からも鼻からも口からも、血が滝のように――血の管《くだ》が破裂して、それからみんな吹き出したものでしょうよ、凄いともなんとも……」
「…………」
 お絹はその時の光景が思い出されて、そぞろに怖ろしくなったようでありましたが、
「そうすると、突っかけた槍の人は濠の中へ転げ落ちてしまいました、水音がしないのが変だと思ったら、なんでも堤《どて》を伝って逃げてしまったのですね。槍は島田先生の手に残っています。先生、お怪我はございませんかと言って駈け出せばよかったのですけれど、あの時に、わたしは竦《すく》んでしまって、どうしても飛び出すことができませんでしたよ。そうすると島田先生は、その槍をこう杖について
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