てしまったのでございます」
「この手紙を、そなたは読んでしまわれたのか」
「はい」
「目の不自由なというそなたが」
「人に読んでもらいましたので」
「誰に」
燈火の穂先が慄《ふる》える。お玉は罪を詰《なじ》られるような心地がして、
「余儀ないわけで……途中で水の中へそのお手紙を落したものですから、それを乾かす時に、つい封じ目が切れまして、その時に懇意な人に読んでいただきました、その人は内緒《ないしょ》を人に洩らすような人ではございませんから、どうぞ御勘弁あそばして」
「それでは、この手紙の用向は委細のみこんでいるな」
「はい」
「では、その筋を話してもらいたい」
「よろしゅうございます」
お玉は、ここでようやく度胸が据わって、大事の大事の人の手紙を見てしまったことが、今までお玉の良心に大へんな重荷であったのを、こうして打明けてしまえば、その重荷を卸《おろ》した心持になってしまったのです。
「でございますけれども、あなた様、お驚きあそばしてはいけませぬ」
お玉は唾《つば》を呑んで念を押すと、
「驚きはせん」
竜之助は冷たい面《かお》の色。
「このお手紙は、あの、遺書《かきおき》に
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