うに冷たく光る。
お玉は知らない。これは机竜之助でありました。
「どうもまことに申しわけのないことを致しました」
お玉はお詫言《わびごと》から先です。
「とにかく、こっちへ上って、まことに済まないがこの手紙をひとつ、拙者に読んで聞かしてもらいたいが」
竜之助は手さぐりにして燭台を少し動かしました。
こう言われてお玉は、ハッと耳まで赤くなったのです。
「はい、あの……」
お玉には手紙が読めないのでした。今まで読めないで通って来たし、読めと言われたこともないのに、ここへ来て恥かしい思いをしようとは思いませんでした。
竜之助は、お玉が遠慮をしているものとでも思ったのか、
「拙者《わし》はこの通り目が不自由でな、せっかく手紙を届けてもらってもそれを読むことができない、どうぞここで代って読んでみて下さい」
静かな声で折返して頼む。
「はい、あの……」
お玉は困ってしまい、
「せっかくでございますが、あの、わたしも目が不自由なのでございまして」
「そなたも目が不自由……」
「はい」
「それはそれは」
「いいえ、目は見えるのでございますが、字を読むことができませぬ、お恥かしゅうござい
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