の手紙に附いているお金をお預かり申したんですけれど、それを失《な》くしてしまいましたから、ぜひそのお詫《わ》びをしなければなりませんが」
「うむ、そのことは大概わかってる」
「ほんとうに済みません、そんな場合でわたしの身が危ないのですから……どうか御免なすって下さい」
「どうも仕方がねえ」
「それでは親方さん、これで御免を蒙《こうむ》りまする」
「まあ待ちねえ、これからお前を一足でも外へ出すのは、雛子《ひよっこ》を狼の中へ入れてやるようなものだ、待っておいで」
「それでも」
「何とかして上げる。今もそれお触れが出たところで、お前と米友は盗賊の罪に落ちている」
「もう捕まってもかまいません」
「ばかなことを言いなさるな。それから、まだ用があるのだ、実はその、お前が持って来てくれた手紙を受取った御当人が、お前に会いてえとこういうのだ」
「そうでござんすか、それではお眼にかかって、わたしからよくわけをお話し申してお詫びを致しましょう」
「向うでも聞きてえことがおありなさるようだから会って行って上げてくれ、今おれが案内してやる」
 与兵衛は、また裏口から立って、仕事場の外へとお玉を導いて出まし
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