、なんとも名状することができないのがあまりに不思議でありました。
兵馬は剣においても槍においても、そのころの大宗師《だいそうし》の正々堂々たる格法を見習っている人でありました。それが今ここへ来て米友の仕業《しわざ》を見れば、まさしくこれは別の世界に驕《おご》っている人と思わないわけにはゆきませんでした。驕るにはあらず寧《むし》ろ天真流露、自ら知らずして自ら得ている人に近い。兵馬が感心をしたのはそれで、思いがけないところで思いがけない宝を掘り出したと同じ思いがするのでありました。それを取ることは明眼《めいげん》の人の義務であって、人のためでもない自分のためでもないという心からでした。
兵馬の知ろうとして、まだ知ることのできないのは机竜之助が音無しの構え。それにも拘《かかわ》らずここでは思わざる拾い物をした。
兵馬は槍を上段につけて、米友の咽喉を扼《やく》している。
米友は猿のような眼をかがやかして、槍を七三の形《かた》にして米友一流の備え。ムクはじっと両足を揃えたまま兵馬を睨《にら》んで唸っています。逃げ足の立った見物は、ここでまた引返して四方から取囲むとこれは思いがけぬ槍試合、
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