の撥で、その鳥目をはっしはっし[#「はっしはっし」に傍点]と受け止めながら、三味をくずさないのが、お杉お玉の売り物なのでございます」
万の[#「万の」に傍点]は仔細《しさい》らしく講釈をしましたが、客はそんな講釈を耳に入れず、お玉の方ばかり見ていました。
「あの形《かた》がいいね」
侍たちの間での囁《ささや》き。
「後ろにあるのは、太秦形《うずまさがた》の石燈籠、それを背中にして、あの通り三味を構えた形は、女乞食とは見えぬ、天人が抜け出したように見ゆる」
「ははあ、なるほど」
先刻の黒羽二重のは、何かまた一人で感に入って膝を丁《ちょう》と打ちます。
「趣向だな、座敷へ上げないで庭で聞かすところが趣向だわい」
独合点《ひとりがてん》をして納まります。通《つう》がってみたい人には往々、なんでもないことを何かであるように、我れと深入りをした解釈を下して納まる人があることであります。
先刻、お玉が座敷へ通されないことを、身分が違う、つまり人交《ひとまじわ》りのできないさげすみ[#「さげすみ」に傍点]の悲しさで、そうした侮りの待遇を受けても、自分もそれで是非ないものと思っており、周囲も
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