母親から正伝《しょうでん》を伝えられたと申すことでございますが、なに、それは傍《はた》で聞いていてほんとに陰気な歌なのでございます、三味の手にしましても数の知れたものでございます、誰も真似手《まねて》がないというので、わざと捻《ひね》ったお客様が買被《かいかぶ》りをなさるのでございます。あんな歌を真似てみようという茶気が、こちら衆の女子《おなご》の中にはないと申すのが、ほんとうなのでございます、手前共の音頭などは、お聞きに入れました通り、陽気なもの陽気なものと骨を折りまして、
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かざり車や、御車《みぐるま》や、御室《おむろ》あたりの夕暮に、花の顔《かんばせ》みるたのしみも……
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歌でさえ、この通り花やかなものでございましょう。それにあなた、あの子の唄う間の山節の文句と言ったら、
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夕べあしたの鐘の声、寂滅為楽《じゃくめついらく》とひびけども……
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こうなんでございます、まるでお経ではございませんか、合の手にはチーンとか、カーンとかお鉦《かね》を入れたくなるではございませんか」
「うむ、それそ
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