いたところを、隠れていた役人が大勢して、やっとのこと、生捕《いけど》ったそうでございます」
「それで、泥棒の罪は白状したのかね」
「ところが、剛情な奴で、お玉の行方も申し上げなければ、お玉に手引をさせて自分が盗んでいながら、自分の盗んだことは※[#「口+愛」、第3水準1−15−23]《おくび》にも白状をしないので、お奉行所でもてこずっているそうでございます」
「では、その米友という小男は、どうしても自分が盗まないと言うんだね」
「左様でございますとも、自分も盗みなんぞをした覚えはないし、お玉だって決して盗みをするような女ではないと、あべこべに啖呵《たんか》を切ってお役人たちをまくし立てているそうでございます」
「そうしてみると、ほんとにあの二人が盗《と》ったわけじゃないんだろう」
「なに、それはもう証拠が上っているんでございますから仕方がありません、お玉の家にお侍衆の印籠《いんろう》もあれば、それにあんなところにあるべきはずでない二十両というお金もあったんでございますから。ことによると二人がグルでやったのかも知れません、そうでなければ米友がお玉を隠し廻るはずがないのでございますからな」
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