ばされませ」
 名物の伊勢音頭を見たから、その次にこの五人連れの若い侍たちは、もう一つ名物の間の山節を聞こうというのでありました。それを承わった備前屋では、使を拝田村へ立てて、お玉を呼びにやったのであります。呼びにやった時からは、もう大分たっているから、来なければならないはずなのであります。
「遅いではないか」
「昼のうちは間の山へ稼《かせ》ぎに参りまして、家へ帰ってから、出直してお座敷のお客様へ出ますものでございますから、それで、その間《あわい》に、いくらか手間《てま》が取れるのでございますが、もう見えまする」
 間の山節の来る間を芸妓や仲居が取持っているのでありますが――お客様が待っているほどに取巻《とりまき》どもは気が進みません。それは間の山節なるものが、名こそ風流にも優美にも聞ゆれ、実は乞食歌に過ぎないというさげすみ[#「さげすみ」に傍点]と、何を言うにもお玉|風情《ふぜい》の大道乞食がという侮《あなど》りがあるからであります。それでもやはり間の山節というと、この楼でもお玉を招かねばならぬことになっているのでありました。
「お杉お玉も、昔からこの土地に幾代もございまして、今のお
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