受け返す途端にまた一つ、米友の面《かお》を望んで飛んで来た石をすかさずパッと受け留めて、
「石の投銭《なげせん》というのは、鳥屋尾左京以来ねえ図だ、投げるなら投げてみろ、一つ二つとしみったれ[#「しみったれ」に傍点]な投げ方をするな、古市の町の石でも瓦でもありったけ投げてみやあがれ、それでも足りなきゃあ五十鈴川の河原の石と、宮川の流れの石とをお借り申して来て投げてみやがれ、それで足りねえ時は賽《さい》の河原《かわら》へ行って、お地蔵様の前からお借り申して来い、投げるのは手前《てめえ》たちの勝手だ、受けるのはこっちのお手の物だ、四尺に足りねえ米友の身体に汝《てめえ》たちの投げた石ころ一つでも当ったらお眼にかからあ、さあ投げろ、投げろ」
米友は竿の先を手許《てもと》に繰《く》って、五色の網をキリキリと手丈夫に締め直すと、ヒューとまた鼻面《はなづら》に飛んで来たのを、鏡でも見るようにしてハッタと受けて、
「まだ早いやい、さあ来い!」
竿を立て直すと、それが合図となって前後左右から注文通り、ヒューヒューと飛んで来る石と瓦が雨霰《あめあられ》。
「ムク、お前は俺の後ろに隠れていろ、その榎から背中を見せねえようにしろ、後ろからそっ[#「そっ」に傍点]と忍んで来る奴があったら、おれが承知だから遠慮なく食いついてやれ、噛み殺してもかまわねえぞ」
大榎とムク犬を後ろにして立った米友。身近に来る石という石、瓦という瓦を、或いは竿を繰延《くりの》べて前で受け、或いは竿を手許に繰込んで面の前で受け、或いは身を沈めて空《くう》を飛ばせ、体を躍《おど》らせて飛び上る。
「やいやい、もちっと骨身のある投げ方をしやあがれ、ぶっついたら音のするように、当ったら砕けるように投げてみねえ、米友様が食い足りねえとおっしゃる――ナニ、鉄砲だって?」
米友は屋根の上を屹《きっ》と見る。生薬屋《きぐすりや》の屋根の上へ火縄銃を担《かつ》ぎ上げたのは、米友も知っている田丸の町の藤吉という猟師であったから、
「ふざけちゃあいけねえぜ、米友様だってこれ、生身《なまみ》を持った身体《からだ》だ、飛道具でやられてたまるかい。ムク、こうしちゃあいられねえぞ、俺《おい》らに続け、合点《がってん》か」
身を沈めて飛び来る石瓦をかわしながら、後ろを振返ってムクに合図をすると、竿の頭から五色の網を払いのける、明《めい》晃
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