消しようがない――室町屋の裏手へつづく杉林に、それが燃えついたからたまりませんでした。
目通り何尺、高さ何丈という大木に火のついたほど始末に困るものはありません。登るには登れず、水をかけようにも下からは届かず。
それを防ぐには、伐り倒すばかりであります、と言って、それほどの大木を苧殻《おがら》を切るようなわけにはゆきません。
いよいよ杉山に火がうつった時、各字《かくあざ》の者は手を束《つか》ねて、せめて、人家へ焼け出さないように用心するよりほかはありませんでした。
人が手を束ねて見ていれば、火はいい気になって延びる、この山を焼き抜いてあの山へと、遠慮なく延びる。
それでも竜王社の方面は消防に力をつくしたために火の手が鎮まったが、これはかえって一方に火勢を追い込んだようなもので、山の手に向う火の手は更に一層の勢いを加えることになりました。木がなくなるところまで焼け抜いておのずから止まるか、そうでなければ、天の池が乾くほどな大雷雨でも来《きた》らぬ限りはこの山火事が続きそうだ。
人間業《にんげんわざ》でこの火を防ぐはあの護摩壇の法力《ほうりき》あるばかりだと、そこへ気がついた各
前へ
次へ
全85ページ中81ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング