と風の騒ぐ音もする。
「さて、修験者殿……」
竜之助は、やや改まった声で、
「いつまでもこうして御厄介《ごやっかい》になってはおられぬ、拙者は立退こうと思う」
「待て待て、その眼を充分に癒《なお》してからにするがよいぞ」
「治《なお》るかよ、この眼が」
「治る、信心一つじゃ」
「うむ――」
竜之助は、また黙った。
「しかし、その信心ができぬ。拙者にはこうなるが天罰じゃ、当然の罰で眼が見えなくなったのじゃ、これは憖《なま》じい治さんがよかろうと思う」
竜之助は独言《ひとりごと》のように言う、修験者はこれについて返事がない。竜之助が独言のように言った時は、修験者はもう護摩壇に上っていて、それを聞かなかったものらしい。
「眼は心の窓じゃという、俺の面から窓をふさいで心を闇にする――いや、最初から俺の心は闇であった」
竜之助の面には皮肉な微笑がある。窓の外の闇はいよいよ暗くして、雨は相変らずポツリポツリ、風もザワザワと吹いている。
心の闇に迷い疲れた竜之助は、こうしたうちにも、うつらうつらと夢裡《ゆめ》に入る。
ちょうどこの時分は、金蔵とお豊も室町屋へ帰っていようし、宇津木兵馬は、
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