した。
八大竜王の八という数が、ちょうどこの竜神村の字《あざ》の数と同じことになる、そうして、この湯本《ゆもと》の竜王社には王の中の王たる難陀竜王を祀ってある、野垣内《のがい》、湯の野、大熊、殿垣内《とのがい》、小森、五百原《いおはら》、高水《こうすい》の七所に、あとの僧鉢羅竜王《そうばちらりゅうおう》までが一つずつ潜《ひそ》んでいるということでありました。
天にもし清姫の帯が現われた時は、遠からずこの八つの竜王が、八所の谷から、悉《ことごと》く荒《あば》れ出して、雲を呼び雨を降らす――さればこそ竜神の社は、竜神村八所の鎮《しず》めの神で、そこに籠《こも》る修験者《しゅげんじゃ》に人間以上の力があり、一村の安否の鍵がそこに預けられてあるように信ぜられているのであります。
お豊は事実、清姫の帯を見た――聞いてみれば怖ろしいことである。どうやらその怖ろしいものを見たのは、自分一人だけであるらしい。
お豊が今ここへやって来たのは、その修験者に向って、自分の見たところを逐一《ちくいち》白状するつもりであることに疑いはないのです。
修験者のいる所は本社の右手の高い森の中で、そこまではま
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