ますよ、わたしは一人で参詣をして参ります、人に助けてもらっては信心になりませぬ」
「それもそうだ。それでは、わしはここで待っていよう。早く、いや、ゆっくりでもよい、お前の思い通り信心をしてくるがよい、夜明けまででも、わしはここで待っている」
金蔵は、旗幟《はたのぼり》を立てる大きな石の柱の下にうずくまって、振分《ふりわ》けの荷物を膝の上に取下ろし、お豊の面をさも嬉しそうに見ています。
「そんなら、待っていて下さい、御参詣をして参ります」
お豊は石段をカタカタと踏んで竜神の社へのぼり行く。金蔵は我を忘れて見上げ見恍《みと》れていました。
竜神の社には八大竜王のうち、難陀竜王《なんだりゅうおう》が祀《まつ》ってあります。
こんな山奥に竜神を祀ることが、奇妙といえば奇妙である――今を去ること幾百年の昔、この地に竜神|和泉守《いずみのかみ》という豪族が住んでいた。その屋敷跡は、今もあるということであります。
竜神の姓はその人以前からあったものか、その人が来て、竜神の社の名によってその姓をつけたものか、その辺はハッキリしません。ハッキリしないところに竜神の秘密がいろいろと附け加えられま
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