お引移りを願いたいもので……」
番頭はてんてこまいをはじめる。
「汝《おの》れは間諜《いぬ》じゃ、幕府の犬であろうな」
印籠鞘の浪士は竜之助に詰め寄せる。
「やれやれ! やっつけろ!」
いま開け放しておいた襖《ふすま》から七つ八つの、いずれも穏かならぬ面《かお》がさいぜんから現われて、この無作法《ぶさほう》な浪士の後援をつとめていたのがいま一斉《いっせい》に弥次《やじ》り出した。
どこへ行っても、今頃は、こんな血《ち》の気《け》の多いのに打突《ぶっつ》かることが珍らしくない。いや、竜之助は、これよりもっともっと生命知《いのちし》らずの新撰組や、諸国の浪士の間に白刃《しらは》の林を潜《くぐ》って来た身だ。
白い眼で、じっと見て、左手で植田丹後守から餞別《せんべつ》に貰った月山《がっさん》の一刀を引き寄せる。
竜之助は、この刀を持ってから、まだ人を斬ったことはないのである。さりとはあまり物好きな、この連中を相手に喧嘩《けんか》を買ってみる気か知らん。
浪士らは、一喝の下に嚇《おど》してくれようと威勢を見せたが、案外、手答えがなく、シンネリとして蒼白《あおじろ》い面に憤《いきど
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