、そう無茶に人を縛るなんて」
「野郎、手向いをしやがるな」
鍛冶倉は上から押しつぶそうとのし[#「のし」に傍点]かかる、金蔵は跳ね起きようともがく途端に、手に触れたのは鍛冶倉の腰にさしていた山刀《やまがたな》。それを奪い取ろうとして遮二無二《しゃにむに》引き廻すと、鞘《さや》が脱け落ちて身だけが金蔵の手に残る。
「アッ!」
どこを突いたか、突かれたか、鍛冶倉は縄を持ったなり二三尺|飛《と》び退《の》いて、横腹のあたりを押えながら面《かお》をしかめる。血がダラダラ二三滴、熊の皮の敷物の上へ落ちる。
「野郎、突いたな!」
「突いたがどうした」
けれども、鍛冶倉の引っぱった縄は金蔵の首に捲きついている。
「アッ、苦しい!」
縄をグッと引くとグッとくびれる。
「アッ苦しい! お豊……お豊さあーん」
血の染《し》みた山刀を振り廻して金蔵は眼を白黒《しろくろ》、苦しまぎれにお豊の名を呼びながら無茶苦茶に飛びかかって山刀で鍛冶倉の面を斬る。鍛冶倉は左の脇腹《わきばら》を刺されている。金蔵の首へかけた縄は放さなかったけれど金蔵の刀は避けられず、またしても左の額際《ひたいぎわ》を一刀《ひとたち
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