受け入れるばかりで、手答えがないのじゃ」
「ただいまも、その通りでござります。それ故に島田は奥行が知れぬと申す者もござります、剣術ばかりで、頭は空《から》じゃと申す者もございまする」
「そうでござろう。拙者の邸に足をとどめておられる頃も、夜更《よふ》けまでじっと考えていて、修行者が来ても立合いということはほとんどせぬ、強《し》いて立合いを望むと、こうして相手の面《かお》を、しばらくじっと見ておるじゃ、そうしてニコリと笑って、立合いはせんでも勝負はわかっているとこう申して、それきり。これには相手も弱った」

「しかし、めざましい立合いも一度や二度は、あったことでござりましょう」
「いや、およそ一カ月の間に、一度も左様なことはない、ただ一度、拙者と槍を合せたことがござる」
「あ、槍の御高名を承わりました。それ故、一手の御教授を下し置かれたく推参《すいさん》致しました次第でござりました」
「槍の高名――滅相《めっそう》なことじゃ」
 丹後守は忽《たちま》ちに打消してしまいましたが、兵馬はその機会をはずさずに、
「宝蔵院流の槍は、三輪大明神の社家植田丹後守殿に伝わると承わりました」
「以てのほ
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