花壇の隅に伏せられた素焼《すやき》の植木鉢に覘《ねら》いをつけたのでありましたが、轟然《ごうぜん》たる響きと共に鉢は粉《こ》に砕けます。
「いざ、これを持っておいで下さい」
 内山は、呆気《あっけ》にとられながら、丹後守の渡す拳銃を受取って見ると、筒先は六弁に開いて、蓮《はす》の実《み》のように六つの穴があります。
「その一発はいま撃ってしまいました、あとの五発、続けざまに撃てるようになっている」
「はあ」
 内山は、それを調べて二三度、構えてみましたが、
「しからば――」
と言って立つと、
「あの、まだ奥に文四郎流の火縄《ひなわ》があります、高江殿にはあれを持っておいでなさるように」
「心得ました」
 なんにしても大業《おおぎょう》なこと、わずか二三の人を送るに駿馬《しゅんめ》に乗り、飛び道具を用意するとは。

 かの足の早い旅人は、西峠を越えて来る机竜之助の馬を避けて通す途端《とたん》に馬上の人を見上げたのであります。
 竜之助も、ふいと笠越しに見下ろすと、
「や!」
 旅の人は、覚えず足を踏みしめたようでしたが、竜之助は別になんとも思わず、そのまま馬を進めようとすると、

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