って、金六夫婦の驚きは一方《ひとかた》でない、近所組合の人も総出で騒いだが、結局、金蔵の行方は更にわかりません。
丹後守はかの弾薬のことについては、何も言わず。ホッと胸を撫《な》で下ろしたのは薬屋源太郎はじめ、お豊らでありましたが、あんな奴だからまた何をしでかすまいものでもない――安心したような、まだ心配が残っているような……それでも金蔵がいなくなったので、ひとまず胸を撫で下ろしました。
金蔵がいなくなってみれば、お豊が植田の邸に預けられる必要はなくなった。
お豊が再び薬屋へ帰った時には、暗い心に薄い光がさしていた。
竜之助は、ものの五町とは離れぬところへお豊が帰ったその晩は、どうも寝られない淋しさを感じた。
さて、お豊は薬屋へ帰っていくらもたたないうちに、伯父の源太郎に向って、亀山へ帰りたいからと言い出しました。
今まで死んでも帰らぬと言い張った故郷へ、今日は我から帰りたいと言い出したことを、伯父は思いがけなく驚いたくらいでしたけれど、当人にその心の起ったことは非常な喜びで、
「それでは、わしが送って行って詫《わ》びをして上げる」
大急ぎで旅立ちの用意をはじめました。
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