ってしまいます。
 この附近では丹後守に会っては、「左様でございます」というか、「左様ではございませぬ」というか、二つの返事のほかは、あまり物を言えないことになっています。丹後守が少しも強圧を用いるわけではないが、自然そんな具合になっていました。
 ああ、悪い人に悪い物を見つかった。
 さすがの金蔵も、慄《ふる》え上って、身を支えることもできないで、松の幹へしがみ[#「しがみ」に傍点]ついてしまいました。
 金蔵は猟師の惣太の手から、旧式の種子《たね》ヶ島《しま》を一|挺《ちょう》、手に入れて、その弾薬は滅多《めった》な家へは置けないから、ここへ隠しに来たものです。町人が鉄砲を持つことは禁制であります。これが表向きに現われる時は、打首《うちくび》か追放か、我が身はおろか、一家中にまで……こんなところへ弾薬を隠しに来るほどの考えなしでも、その罪科の容易ならぬことは弁《わきま》えているものと見えます。
 証拠物件は押収《おうしゅう》されてしまった――
「ああ、首を斬られる! 今夜にも俺は縛られて打首になるのだ!」
 金蔵は恐怖|極《きわ》まって地団太《じだんだ》を踏んでみました。
 いつぞ
前へ 次へ
全115ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング