いのだ、鴉が打てたら、鉄砲は玄人《くろうと》だよ」
「そうかなあ。いったい、鳥では何が打ちよいのじゃ」
「そうさ、お前さんの打ちよいのはそこにいる」
「ばかにしている、あれは鶏じゃないか、雉子《きじ》か山鳩あたりをひとつ、やってみたいな」
「雉子《きじ》をひとつ、やってごらんなさい、二三日うちに山へつれて行って上げます」
「雉子が打てれば占めたものだ、それから兎、狸、狐、猪、熊――」
「そうなると、こちとら[#「こちとら」に傍点]が飯の食い上げだ。しかしこの間、曾爾《そに》の山奥では、猪と間違えて人を打った奴があるそうだ。金さん、お前もそんなことになるといけねえから、わしの見ぬところで煙硝《えんしょう》いじりは御免だよ」
「猪と間違えて人を撃つのは勘平《かんぺい》みたようなものだが、惣太さん、人を撃つのはよっぽどむつかしいものかい」
「俺も永年、猟師をやっているが、まだ人間を撃ったことはねえ……」
十二
夜も四ツに近い頃、三輪明神の境内には、もはや涼みの人もまれになった時分、「おだまき杉」の下に、一つの黒い人影があります。
手に持っていた小さい徳利《とくり》を
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