申し上げてはさだめし鉄面《あつかま》しいやつとおさげすみでもござりましょうが、あなた様が関東へお下りの節……できますことならば」
「…………」
「あの、御一緒にお伴《とも》をさせていただきとう存じます」
「一緒につれて行けと申されるか」
お豊を失望させるほど冷やかに、竜之助は呑込んだともつかず、いやとも言い出さず、やがて、
「それもよかろう、強《し》いてお止めは致さぬ」
やっとこう言い出して、少し間《ま》を置き、
「が、そなたが江戸へ行くことは、伯父上は勿論《もちろん》のこと、ここの先生も、またそなたの御実家もみな不同意でござろうな」
「それはそうでございますけれど……もし故郷へ送り返されるようなことになりますれば、生きてはおられませぬ」
「ふむ――」
竜之助は団扇《うちわ》を下に置いて腕を組んでみましたが、よく生命《いのち》を粗末にしたがる女よと言わぬばかりの態度にも見えましたが、また極めて真剣に何か考えているようにも見えます。
そうして、しばらくつぶっていた眼をパッと開いて、
「よろしい、生命がけの覚悟ならば……」
この時、表の方で人の足音がやかましい。祭りに行っていた家
前へ
次へ
全115ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング