の連中が帰って来たものと思われる。

         十一

 その翌朝のこと、藍玉屋《あいだまや》の金蔵は朝飯も食わずフラリと自分の家を飛び出しました。
「金さん、金蔵さん」
 長者屋敷のところで、横合いから、火縄銃《ひなわづつ》を担《かつ》いで犬をつれた猟師|体《てい》の男が名を呼びかけたのをも気がつかず通り過ぎようとすると、猟師は近寄って来て、金蔵の肩に後ろから手をかけ、
「どうした、金蔵さん」
「やあ、惣太《そうた》さん」
「何だい、えらく悄気《しょげ》てるな」
「ああ、少し病気だよ」
「大事にしなくちゃいけねえよ」
「だから保養に、ここらを歩いているのだ、どうも頭の具合が面白くないからね」
「それでは金蔵さん、今日は一日、俺と高円山《たかまどやま》の方へ行かねえか、山をかけ廻ると気の保養になるぜ」
「そんな元気があるくらいなら、こうしてぶらぶらしてはいないよ、ああつまらない」
「困るな。では俺が近いうち、猪《しし》の肉を切って行くから、一杯飲んで気晴らしをしよう」
「うん」
「まあ、大事にするがいい」
 この猟師は惣太といって、岩坂というところに住み、兎、鹿、猿、狐などの獣
前へ 次へ
全115ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング